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その言葉を聞いて、二の句が継げなかった。
臍をかんでばかりの僕を嗜めているのだ。人間は不完全な生き物なのだと。
長田所長は温和な見た目ながら、相手が優柔不断だと鋭く厳しい態度を取るときがある。
それだけ相手にも自分にも厳格な人なのだ。
「それはやはり“あの人”の影響ですかね」
「……はい。僕を救ってくれた人に憧れて、それで児童福祉司になりました」
「想いは継がれて時代を越えるのですね。もう君たち若者の時代だと思うと、つくづく嬉しい限りですよ」
長田所長がしみじみと言った。その晴れがましい表情を見て、ちょっと嬉しくなる。
「でも、あの泣き虫で引っ込み思案だったイサナ君がねぇ……」
「今でも泣き虫で引っ込み思案なんですけどね」
「三つ子の魂百まで。人間はそう簡単には変わりませんよ」
今度は昔を思い出して苦笑するように言われた。ちょっと自尊心にヒビが入った。
「おっ、ユキナ君が出てきましたね」
言われて振り向くと、玄関から子どもたちが歓声をあげながら出てきた。中庭で遊ぶためだ。
立ち話をしている僕たちの前を通り過ぎていく子どもたちのなかに、弟マサル君を亡くし母が逮捕されて独りになったユキナちゃんの姿があった。
ユキナちゃんがこちらを見るが、まるで空気のように無視して走っていく。
(やはり、許してもらえないんだね)
落胆する僕の前で、最後尾を走ってきた女の子がスッテンと転んだ。ショートカットで大人しそうな子である。
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