第2章 死骸とネコと、半心の悪魔 ─ ケース1 ─

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「大丈夫かい?」  僕は手を差し伸べようとすると、 「触らないで!」  ユキナちゃんが怖い顔で叫ぶ。  その形相が母である今日子さんに似ていて、一瞬で凍りついた。 「ミヤビちゃん大丈夫? ほら、ヒザが汚れているよ」  ユキナちゃんの手を借りて、ミヤビと呼ばれた女の子は立ち上がった。  僕の方をオドオドと見るが、ユキナちゃんに手を引かれて中庭に走っていく。 「気にしないでくださいねイサナ君。子どもはね、たとえ理不尽でも母親に従って生きるものなのですよ。 その親が否定されると、自分そのものが否定されたみたいに反抗するのです」  ユキナちゃんには、僕は母親を捕らえた大人の代表に見えるのだろう。  それがたとえ弟を虐待死させた母親でも、彼女には唯一の庇護者であったのだ。 「仲良さそうですね、あの2人」 「大宮ミヤビ君ですね。ユキナ君と同じ歳で気があったようで、いつも一緒にいるんですよ」 「友達ができて良かったです本当に」 「彼女は引っ込み思案なミヤビ君に、まるでお姉さんのように接しているのですよ」 「たしかに内向的に見えますね」  自分を省みるにそう感じた。 「ミヤビ君はね、3年前に起きた母子無理心中事件の生き残りなんですよ」 「えッ……!?」  長田所長の言葉に驚いて、思わず声がもれる。  服部女史から、3年前にナギサが虐げられた子どもの霊を死送ったが、母親は子どもの亡骸を抱いて投身自殺をしたと聞いていたからだ。 「母親が無理心中をしたと聞きましたが?」 「ミヤビ君はね、その亡くなったお兄さんの妹なんですよ」  長田所長が嘆息にも似た声で答えた。
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