第2章 死骸とネコと、半心の悪魔 ─ ケース1 ─

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「妹さんがいたなんて……知りませんでした」 「その案件を担当していたのが“あの人”なのですよ。それがマスコミで問題となって、責任を取らされた彼はこの街を去りました」  女史が言っていた人事の刷新とはこのことだったのか。  そのマスコミ騒動なら知っている。母子無理心中の矢面に立たされた児童相談所は、結果的に所長と数名の職員を変えたと発表したのだ。  僕はそこまで思いを巡らせたときに、ふと妙な違和感を覚えた。  なぜ母親は、亡くなった子どもの亡骸を抱えて投身自殺をしたのか?  虐待していた子どもなのにである。  それがどうにも不合理で、いたく頭を悩ませた。  そのとき、ユキナちゃんの悲鳴が聞こえた。 「ミヤビちゃん、どうしたのっ!?」  僕と所長は慌てて声がした中庭に行くと、ミヤビちゃんが頭を抱えて震えていた。 「オバケが来るよ、オバケが来るよ」  3階建ての施設の方を指差し、身体をくの字に曲げて泣いている。  彼女の視線を追うが、そこには何も見当たらなかった。 「オバケが来るよ、オバケが来るよ」  震えるほど怯えていた。何を怯えているのだろうか。 「ミヤビちゃん、大丈夫よ。オバケなんていないから安心して」  騒ぎを聞いて駆けつけた保育士が介抱するが、ミヤビちゃんはなかなか泣き止まなかった。 「ミヤビ君は時々ああなるんですよ。虐待と肉親の死を間近で見たせいか、その恐怖がありもしない存在を見せているのかもしれないね」  長田所長が悲しい表情で言う言葉を、ただ黙って聞くしかなかった。
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