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「やっぱり何かおかしいよな」
僕は心ともなくつぶやいていた。
「おかしいのは猫屋田、お前さんの方だよ。養護施設から帰ってきたら呆けて仕事もしないなんて」
美蝶子さんが書類の山から眉根を寄せた綺麗な顔を上げた。
「だって、おかしいですよ美蝶子さん。3年前の母子無理心中事件で、なぜ母親はすでに死んでいる子どもを抱えて投身自殺したのでしょうね?」
「お前さんは、ますますお馬鹿に磨きがかかったようだね」
美蝶子さんが嘲笑うように言うと、手鏡で頭部を眺めていた辰鳥課長がギョッとした。
「また頭の話をしてる」
眉を下げて悲しい顔をする課長を鮮烈にスルーして、美蝶子さんが話を進める。
「自殺する人間は、そもそも異常な精神状態にあるんだ。きっと自分だけで死ぬのが怖くなったか、それとも突然に母性に目覚めたかだな」
「その事件で残された妹さんに会いました。母性が目覚めたのなら、なぜ幼い妹を置き去りに死んだのでしょうか?」
思っていた疑問を呈すると、ますます美蝶子さんの眉根の皺が深くなった。笑っていれば美人なのに。
それを知りたくば当事者の1人であるナギサに聞けばいいのだが、あいにく彼女は携帯を持っていないのだ。
あれから何度か公園に行ったが、白姫家の一件以来会っていない。
「そういえば、その事件を調べていた記者がいたね」
服部女史が思い出したように声をあげた。
「猫屋田君が興味があるのなら、連絡を取ってみるけれど?」
「お、お願いできますかッ」
「むふ~ん、了解したわ」
僕は喜び勇んで答えると、女史が椅子を軋ませながら親指を立てた。
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