第2章 死骸とネコと、半心の悪魔 ─ ケース1 ─

6/15
前へ
/184ページ
次へ
「それより猫屋田、もう家庭訪問の時間だろう?」 「あッ、もうこんな時間か」  美蝶子さんに言われて気がついた。  不登校の姉妹がいる家庭を訪問する予定になっていたのだ。 「赤海(あかうみ)さんのお宅だろう。行ったら、きっと驚くぞ」 「えっ、またネグレクトでゴミ部屋なんですか?」 「それは行ってのお楽しみさ。刮目して相待つべし」  美蝶子さんが謎の笑みを浮かべてのたもうた。  得てして、彼女のこういう笑いは何かある証拠である。嫌な予感がして悪寒が止まらない。  くだんの赤海家は相談所から近いので、車ではなく自転車で行くことにする。  星降市は、私鉄で都心にアクセスし易いため市の大部分が住宅街へと発展して人口を増やした、いわゆる典型的な東京ベッドタウンだ。  その住宅地が多くある中央区に自転車を走らせる。  この辺りも空き家が目立つようになった。  古びて雨戸の閉まった一戸建てが目立つ。  それに住宅地は人通りが少なく、ひっそりとして人の気配を感じない。  人口の減少にともない、住宅の数が世帯数を上回っている。  それは核家族化の問題もあるけれど、これからは世帯数も減少する一方だからである。  ますます空き家が増えて、家族が少なくなっていく。 (だからますます孤立する家族が増えて、そこで虐待を受ける子どもの発見が遅れていくんだな)  引っ越してきても挨拶しない若い親が多く、どこの世帯に何人の子どもが住んでいるのか、まったくわからない状態になっていると聞く。  並び建つ住宅街の端、ひっそりとした小さな森を背に、赤海家はあった。
/184ページ

最初のコメントを投稿しよう!

40人が本棚に入れています
本棚に追加