第2章 死骸とネコと、半心の悪魔 ─ ケース1 ─

7/15
前へ
/184ページ
次へ
 ベージュの外壁に黒い屋根をした、和風でモダンな平屋の一軒家である。 「見た目は綺麗な一軒家だけど」  ゴミ屋敷を想像していたので、正直ホッとする。でも見た目で家庭はわからない。  僕はインターホンを鳴らす前に今一度、不安を払拭するためケースファイルを見ることにした。  赤海家は、母親が理恵花(りえか)で夫とは離婚していた。  姉妹は長女アエカで、次女アケミとなっている。姉妹は同い歳、つまり双子だった。  小学校1年生だが、現在は不登校になっていると担任教師から連絡が入っている。  ファイルには他にも記述があったが、なかでも目を引いたのが「心理的虐待」という書きこみだった。  心理的虐待とは、児童に著しい心理的外傷を与える言動を行うことである。  たとえば、子どもの心を傷つける言葉の脅し、子どもを無視したり拒否的な態度を示す、子どもの前で家族に暴力を振るう等のケースを指す。 「いずれにしても、子どもの無垢な心に深い傷を負わせる虐待だな」  独りごちながらファイルを閉じた。  そうは言っても相手は心理的圧力に長けている。  簡単に言い負かされる自信だけはあった。  そうなったら立ち直れなくなること必至である。  もう一度ケースファイルを開く。また閉じる。  それを都度3回ほど繰り返す。煮え切らないこと甚だしい。 「この軟弱者~」と、美蝶子さんのせせら笑う顔が脳裡に浮かぶ。 「ああ、もうッ」  頭を掻きむしり地団駄を踏んだ。 「おのれ、美蝶子さん!」  変な気合いを入れ、遂に心を決めた。ここまでに費やした時間は延べ5分である。  優柔不断を蹴飛ばして、思い切ってインターホンを押す。 「赤海さん、こんにちは~。相談所の猫屋田と申します」
/184ページ

最初のコメントを投稿しよう!

40人が本棚に入れています
本棚に追加