第2章 死骸とネコと、半心の悪魔 ─ ケース1 ─

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 精一杯の愛想笑いした声で挨拶した。  ところが、返事がない。  ちょっとホッとしたが、何やら家の奥で気配が動いている。どうやら人がいるらしい。 「赤海さん、相談所の──」  言いかけた途端、 「はい、どなた?」  いきなりドアが開いた。  母親の理恵花さんらしい人が顔を覗かせたのである。 「あっ、すみませ……!?」  照れ隠しに頭を掻いた手が、戦慄くように止まった。  怒りに満ちた顔、不機嫌な顔、迷惑そうな顔、寝ぼけ眼な顔──いくつかのパターンを想像していたが、ドアから顔を覗かせた理恵花さんは、想像の上段斜め上を凌駕していた。  顔の左半分だけが異様なのである。  右半分は普通の小綺麗なヤンママ風なのだが、まるで左半分だけ見た印象が違う。  そう、それは左半分だけ化粧をしていない状態なのだ。  右半分だけが普通の顔で、左半分が化粧しない無造作な顔。  それがこれほど奇妙に映るとは思わなかった。  良く見れば、それは顔だけでなく服も同様だとわかる。  左半分の服装だけが肩からはだけていて、ぶつけて破れていたり汚れていた。 「じ、児童相談所の猫屋田と申します」  あらためて挨拶する。  すると理恵花さんが顔を左に向けて、やっと気づいたように声をあげる。 「ああ、児相の人ですか。今日は何の用でしょうか?」 「はい。実は赤海さんのアエカちゃんとアケミちゃんが、小学校に──」  そう説明しかけたときに、理恵花さんの後ろから小さな顔が覗いたのである。 「ママ、お客さんなの?」  それは目鼻立ちのハッキリとした、まるでフランス人形のように綺麗な少女だった。  さながら地上に降りた天使のようである。
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