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「こんにちは。僕は猫屋田という名前だよ。君のお名前を教えてほしいな?」
「わたしはアエカです」
アエカちゃんが瞳を瞬きもせずに淀みなく答える。その瞳に美しき無垢を宿していた。
「アエカちゃんか。するとお姉ちゃんだね。妹さんのアケミちゃんはいるかな?」
僕はしゃがんで訊くと、
「……アケミ……?」
理恵花さんが虚をつかれたようにつぶやいた。まるで初めて聞いた言葉のように、口のなかで咀嚼している。
「ママ、アエカの妹のアケミだよ」
アエカちゃんが理恵花さんを見上げて言った。
すると、理恵花さんとアエカちゃんの後ろをパタパタと白い足が横切るのが見えた。
「妹さん」と言いかけたら、
「アケミですね、待ってください。ちょっと呼んできますから」
アエカちゃんがペコリと頭を下げて駆けていった。うん、良い子だ。
ほどなく、アケミちゃんがやって来た。
「アケミです」
姉のアエカちゃんと顔がそっくりである。2人は一卵性双生児だった。服まで同じだと、まったく見分けがつかない。
「それで赤海さん、2人が小学校に登校していないと担任の先生から連絡を受けているのですが──」
先ほどの話の続きを切り出すと、
「必要ないから」
アケミちゃんが一言つっけんどんに言って、プイッときびすを返して行ってしまった。
どうやら急に呼ばれてご機嫌斜めのようである。
と思ったら、またやって来た。
「猫屋田さん、ごめんなさい」ペコリと頭を下げる。「あっ、わたしは姉のアエカです」
う~ん、双子って難しい。
「そ、それで小学校ですが──」
また話を戻すと、
「うちのアエカは天才なんです。小学校のドングリの背比べのような教育では、到底アエカの知能レベルに合いませんの」
理恵花さんがキッパリと言い切った。
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