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「いや、小学校は義務教育なのですが……」
「子どもを駄目にする教育なら無意味不必要ではありませんか」
「友達と触れ合うことで──」
「天才に見合うレベルの子どもが他にいると言うのですか? それともアエカの天才の芽を摘むおつもりなのですか!?」
ヤバい、激高してきた。
「と、とにかく、が、学校には行った方が──」
「帰ってください!!」
僕がシドロモドロで言いかけた言葉を、理恵花さんが思いっきり閉めたドアの音で叩き潰された。
けんもほろろに拒絶されてしまった。ドアが閉まる前に見た、アエカちゃんの悲しそうな眼が忘れられない。
閉ざされたドアに向かって深くお辞儀した。
落胆の影を引きずりながら、トボトボと相談所に帰る。
「どうだった猫屋田?」
美蝶子さんが開口一番で訊いた。興味津々という文字が顔に書いてある。
「どうって、吃驚しましたよ本当に」
リュックバックを机に起きながらぼやくと、
「そうだろうそうだろう!」
美蝶子さんと雉子さんが箸が転げたように笑った。この性悪な魔女姉妹め。
「赤海さんのお母さん理恵花の顔が、すっごく変なんですよ。半分だけ普通の化粧で、半分だけ化粧もせず無造作な感じで」
「猫屋田それはね、半球特異性の半側空間無視という症状だよ」
「また難しい言葉が出てきましたね」
美蝶子さんが人差し指を立てて言ったが、その専門的な言葉の想像すらつかず顔をしかめる。
「お馬鹿な仔猫ちゃんにも理解できるように説明すると、脳が左右どちらか半分だけ認識しなくなる病気さ」
「半分だけ……? そういえば理恵花さんは左半分だけ異常でした」
「左半側空間無視だね。右脳の障害によって左半側空間無視の方が起こりやすく、長期化して治すのが困難だと言われているよ」
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