第2章 死骸とネコと、半心の悪魔 ─ ケース1 ─

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「いや、小学校は義務教育なのですが……」 「子どもを駄目にする教育なら無意味不必要ではありませんか」 「友達と触れ合うことで──」 「天才に見合うレベルの子どもが他にいると言うのですか? それともアエカの天才の芽を摘むおつもりなのですか!?」  ヤバい、激高してきた。 「と、とにかく、が、学校には行った方が──」 「帰ってください!!」  僕がシドロモドロで言いかけた言葉を、理恵花さんが思いっきり閉めたドアの音で叩き潰された。  けんもほろろに拒絶されてしまった。ドアが閉まる前に見た、アエカちゃんの悲しそうな眼が忘れられない。  閉ざされたドアに向かって深くお辞儀した。  落胆の影を引きずりながら、トボトボと相談所に帰る。 「どうだった猫屋田?」  美蝶子さんが開口一番で訊いた。興味津々という文字が顔に書いてある。 「どうって、吃驚しましたよ本当に」  リュックバックを机に起きながらぼやくと、 「そうだろうそうだろう!」  美蝶子さんと雉子さんが箸が転げたように笑った。この性悪な魔女姉妹め。 「赤海さんのお母さん理恵花の顔が、すっごく変なんですよ。半分だけ普通の化粧で、半分だけ化粧もせず無造作な感じで」 「猫屋田それはね、半球特異性の半側空間無視という症状だよ」 「また難しい言葉が出てきましたね」  美蝶子さんが人差し指を立てて言ったが、その専門的な言葉の想像すらつかず顔をしかめる。 「お馬鹿な仔猫ちゃんにも理解できるように説明すると、脳が左右どちらか半分だけ認識しなくなる病気さ」 「半分だけ……? そういえば理恵花さんは左半分だけ異常でした」 「左半側空間無視だね。右脳の障害によって左半側空間無視の方が起こりやすく、長期化して治すのが困難だと言われているよ」
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