第2章 死骸とネコと、半心の悪魔 ─ ケース1 ─

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「大丈夫じゃないさ。赤海さんを入院させてリハビリしようにも、精神保険福祉法改正で精神科医療機関が3ヶ月早期退院の徹底化を図っているからね。 どんなに危なくても3ヶ月で退院せざるを得ないんだよ」 「それは問題ですね。母親が子どもを無視するなんて傷つきますよね」  雉子さんが書類の山から顔を覗かせた。 「くわえて母親が異常にプライドが高いから、自分に障害があることを認めようとしないのさ。 母親の実家が資産家だから、貧因に陥らないだけマシかな」 「あっ、でも姉のアエカちゃんは良い子でしたよ」  僕は思い返したように言った。 「そこなんだよ、猫屋田君」美蝶子さんが人差し指を立てる。「その説明の前に喉を潤したい。わらわは茶を所望するぞよ」 「やれやれ。御意です御主人様」  美蝶子さんの要望でお茶を用意する。美蝶子さんが緑茶で、雉子さんがジャスミン茶だ。ついでに自分の紅茶も用意した。  その間に家庭訪問を思い返した。母親の理恵花さんは何と言っていたか。 「そういえば理恵花さん、娘のことを天才と呼んでいましたね」  2人にお茶を配りながら口にすると、 「生まれながらの天才はいると思うかい?」  美蝶子さんが神妙な表情で訊いた。 「生まれながらにして天才っていうと、アインシュタインやダ・ヴィンチがいますよね」 「わたし知ってますよ。9歳で米国シカゴのロヨラ大学に進学して、13歳でシカゴ大学で分子遺伝学と細胞学の博士学位を取得した天才児がいます。 しかも3歳で誰にも教えられずにショパンのピアノ曲を弾いて、4歳で作曲までしちゃったんですよ」  凄いですねと雉子さんが大仰に言うと、美蝶子さんは指を組み前のめりで語りだした。 「あの双子もそれに近いかもね。赤海さんがリハビリで入院したとき、あの双子姉妹を預かったのよ。 それで軽い言語性IQ検査をしたら驚いたよ、明らかに特異な数値を見せたからね」
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