第2章 死骸とネコと、半心の悪魔 ─ ケース1 ─

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 児童相談所で行う心理検査で言語性IQを見るものがある。言語理解と注意記憶を判定するもので、児童の能力差の診断に役立たれる検査法だ。 「この姉妹のごとく、先天的に平均値よりも高度な知的能力の持ち主を、神または天から与えられた資質を持つ者“ギフテッド”と呼ばれているよ」 「でも美蝶子さん、アエカちゃんとアケミちゃんはどの分野の天才ですか?」  思わず訊いてしまった。  僕のような凡人にはギフテッドという存在が想像もつかないけれど、アエカちゃんを見た限りでは大人びた聡明な子どもにしか映らなかったからだ。 「……性善説と性悪説って知ってるかい?」  やにわにポツリと、美蝶子さんがつぶやいた。 「それって、人は生まれながらに善の存在なのか、悪の存在なのかということですよね」 「違いますよ猫屋田君。性善説は、人は生まれつきは善であるが後天的に悪行に汚染される。 性悪説が、人は生まれつきは悪だが後天的に善行に触れるですよ」  雉子さんがはっちゃけて言うと、美蝶子さんは苦笑してうなずく。 「まあ、雉子ちゃんの言うことが正解だけど、この場合は猫屋田の言う言葉で進めようか。 つまりアエカちゃんは、生まれながらにして善の天賦がある子どもなんだよ」 「生まれながらの善き天才ですか……」  へぇ~とため息がもれた。それって全然想像がつかないことである。 「わずか7歳にして、戦争論や死刑論を否定して人類の恒久的な平和思想を論じていたよ。 それはもう大人顔負けの論法で、無駄に歳を重ねている自分が情けなくなったね」  ウンウンと僕がうなずいていると、前方から殺意のこもった紙くずが飛んできた。
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