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「それでいくとアエカちゃんは、性善説派の唱える子どもは無垢な存在で、汚れなきゆえに悪に染まるとなるね。
もっとも、あたしは性悪説派だけどね。子どもは無邪気であるが故に残酷な存在なんだよ。その性は悪で、教育で善を学ぶのさ」
「わたしの考えは、子どもの精神はちょうど水のように、容易に善に向かえば悪に傾くものと思いますね」
雉子さんがウザカワ顔で言うと、美蝶子さんがポンッと手を打つ。
「それは性白紙説だね。人間の心は生まれたときには白紙のようなもので、生後どのような環境でどのような経験をするかによって、何色にでも色をつけることができると唱えたヤツだね」
「僕は……性善説です。児童福祉司はそう信じないと子どもと付き合えませんから」
前から思っていたことを口にする。
すると魔女姉妹が懐疑的な眼で僕を見た。
「いけませんか?」と、キッと睨むと2人が肩をすくめる。
「猫屋田は若いなぁ~」
若さだけは負けませんから、意地悪な魔女姉妹には。
「ではアケミちゃんは何ですか。もしかしたら悪だと言うのですか?」
「いや、妹は悪ではなく普通だ。普通に劣等感を感じ嫉妬心を抱く、普通の人間なんだよ」
「そうですか。悪じゃなくて良かった」
「けれども、そんな悪に染まりそうな妹の存在を、善の天才である姉が許すと思うかい?」
美蝶子さんが意味深な言葉をつぶやいた。
「自然のままに育てればいいのよ。パンつくりと一緒よ」
麦子さんが天真爛漫な笑みで言った。
「美味しいパンをつくる秘訣は、自然のままの酵母を大切にすること。愛情をそそいで酵母の力にまかせればいいのよ」
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