第2章 死骸とネコと、半心の悪魔 ─ ケース1 ─

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「それでいくとアエカちゃんは、性善説派の唱える子どもは無垢な存在で、汚れなきゆえに悪に染まるとなるね。 もっとも、あたしは性悪説派だけどね。子どもは無邪気であるが故に残酷な存在なんだよ。その性は悪で、教育で善を学ぶのさ」 「わたしの考えは、子どもの精神はちょうど水のように、容易に善に向かえば悪に傾くものと思いますね」  雉子さんがウザカワ顔で言うと、美蝶子さんがポンッと手を打つ。 「それは性白紙説だね。人間の心は生まれたときには白紙のようなもので、生後どのような環境でどのような経験をするかによって、何色にでも色をつけることができると唱えたヤツだね」 「僕は……性善説です。児童福祉司はそう信じないと子どもと付き合えませんから」  前から思っていたことを口にする。  すると魔女姉妹が懐疑的な眼で僕を見た。 「いけませんか?」と、キッと睨むと2人が肩をすくめる。 「猫屋田は若いなぁ~」  若さだけは負けませんから、意地悪な魔女姉妹には。 「ではアケミちゃんは何ですか。もしかしたら悪だと言うのですか?」 「いや、妹は悪ではなく普通だ。普通に劣等感を感じ嫉妬心を抱く、普通の人間なんだよ」 「そうですか。悪じゃなくて良かった」 「けれども、そんな悪に染まりそうな妹の存在を、善の天才である姉が許すと思うかい?」  美蝶子さんが意味深な言葉をつぶやいた。 「自然のままに育てればいいのよ。パンつくりと一緒よ」  麦子さんが天真爛漫な笑みで言った。 「美味しいパンをつくる秘訣は、自然のままの酵母を大切にすること。愛情をそそいで酵母の力にまかせればいいのよ」
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