第2章 死骸とネコと、半心の悪魔 ─ ケース2 ─

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「調香師って、さまざまな香料を調合して香りをつくる職人ですよね?」 「良く知ってるね」 「母の蔵書にそういうのがありましたから。 あっ、僕の名前は猫屋田イサナ。児童相談所で児童福祉司の仕事をしています」 「児童相談所って……ナギサまさか」  八分儀さんが眉根を寄せて振り向くと、 「イサナは死送りを見た」  ナギサが澄ました顔で言った。 「ナギサが死送りの術式を人に見せるなんて珍しいね」 「イサナは共感能力が高い」 「それで子どもの虐げられた魂が反応すると思ったのか」  何やら2人で納得しているが、まるで会話が理解できない。  共感能力? 虐げられた魂が反応? どういう意味なのだろうか。  僕が首をかしげて戸惑っていると、 「イサナ君は、子どもの頃から人の感情に敏感だったでしょう?  もっと言うと、他人の痛みを感じていたんじゃないかな?」  八分儀さんが眼鏡の奥の眼をほそめて訊いた。 「そうしてそんなことがわかるのですか?」 「ナギサも昔は共感能力に優れていたんだよ」 「その共感能力とは何ですか?」 「単純に説明すると、他人の感情に共感する能力だね。 共感能力者はエンパスと呼ばれ、脳内のミラー・ニューロンという神経細胞が発達しているのが判明しているんだよ」 「そんなこと初めて聞きました」  子どもの頃から感情移入が激しかった。  他人が泣いていると自分も泣きだす子どもだった。  それがゆえに児童福祉司を目指していると母に語ったとき、自分が傷つくのではないかと随分心配されたものである。
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