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「……死送る助死師とは何ですか?」
僕は心にわだかまっていた疑問を訊ねた。
「霊を降ろす降霊術は知っているね。それとは別に、香りを使って霊を降ろす香霊術(こうれいじゅつ)というものがあるんだ」
「それはナギサがやっていた死送りの術式ですね!?」
「西洋の冥府の花アスポデロスは、東洋では三千年に一度花を咲かせる伝説の花“優曇波羅華(うどんはらげ)”といわれ、インドのヴェーダ聖典では“ソーマ”、ゾロアスター教では“ハマオ”と呼び、日本では“黄泉香(よみこう)”と名づけられた。
それはとても稀少な幻の香りで、人を開放性幻覚に誘う神秘の芳香なんだよ。」
「死送りの術式とは、幻覚を見せるものなのですか?」
「それを八分儀では幻霊と呼んでいる。日本は遙か古代から、幻覚植物を使ったシャーマン体系があったんだよ。
八分儀の家系は朝廷や為政者の幻霊を喚びだして、その言霊を神託として伝えてきた香霊師なんだよ」
「そんな陰の歴史があったんですね」
「幽霊とは、人の心に潜む抑圧した負の感情が幻影となって視えるものなんだ。
意識下の深層意識に溜まった妄執や怨念が、幻影となって視えるのが幽霊の正体なのさ。
でも香霊術では、その幻影が第三者にも視えて、その幻影と会話も可能になるんだ」
「つまり生きている人の負の感情が、霊となって死送りの術式で現れるのですね」
この前のマサル君の死送りでは、母である今日子さんの罪の意識が幻影となって姿を現したということなのか。
「幻ではなく魂は実在する」
ナギサが硬い表情で言った。
「ナギサも八分儀さんと同じく香霊師なのですか?」
僕は何気なく訊くと、
「ナギサの榊花家は八分儀家の分家にあたる香霊師で、それは別に死番師と呼ばれているんだよ」
八分儀さんが中指でクイッと眼鏡を直しながら答えた。
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