第2章 死骸とネコと、半心の悪魔 ─ ケース2 ─

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「死番師という名前は嫌いだ。私は死送る助死師が合っている」  ナギサが頑なに言い張る。 「あっ、でも八分儀さん。共感能力が虐げられた魂に反応するとか、ナギサも昔は共感能力に優れていたとか、一体どういう意味なんですか?」 「死送りの術式は審神者(さにわ)のような存在なんだ。審神者とは、霊魂の言葉を受け入れて要求を満たす者。 でも虐げられた魂は不安定で、それを磁石のように惹きつける存在が必要なのさ」 「その審神者が僕なんですか?」 「ナギサも昔はそれができた。だけど、あることが原因で心が壊れて能力が希薄になったんだよ」 「……その原因は、自分が生きる死骸だと言っているのと同じですか?」  僕は前から気になっていた。ナギサが感情を波立たせない人形のようになった理由が、どうしても知りたかったんだ。 「それは僕からは言えないね。いずれ本人から聞いてくれたまえ」  八分儀さんに言われてナギサを見やると、相変わらず硬い表情をしたままである。とても原因を聞けるとは思えない。  さてどうしたものかと思案に暮れていると、「みゃう」と黒猫のワルキューレが近寄ってきた。どうやら店でお留守番をしていたようだ。 「ワルキューレも久しぶりだね」  膝をついて挨拶すると、スリスリと頭をこすりつけてくる。  猫のスリスリはマーキングだというから、さしずめこの店は縄張りなのだろう。  ゴロゴロと喉を鳴らす音とは別に、幽かに鼓膜を震わせる音色がしているのに気づく。  そのおぼろげな音は、どうやらワルキューレから聴こえてくるようだ。 「この音は……?」  それはアンジェラスの弔鐘から聴こえる鐘音だった。  まるで何かに共鳴するように微かに震えている。
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