第2章 死骸とネコと、半心の悪魔 ─ ケース2 ─

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「み、み、美蝶子さんッ!?」 「ごきげんよう、猫屋田君」  僕は眼を剥いて驚いていると、美蝶子さんが満面の笑みをたたえて言った。 「イサナ、あの女は誰なのだ?」  ナギサが怪訝な顔で問うた。まさに最悪のタイミングだ。  両手に花ならぬ前門の虎後門の狼である。  規格外に濃い2人のことだ。齟齬が生じることは必至であろう。 「あの女、いや、あの人はね、相談所の先輩で美蝶子さんだよ」 「その先輩で猫屋田のお目付役である猪鹿美蝶子です。 可愛い後輩が仕事をサボってデートしているのを見てしまい、先輩として処遇を決めかねているところですの」  美蝶子さんがひときわ高いオクターブで言った。 「美蝶子か。私は榊花ナギサだ」  ナギサが呼び捨てにして名乗ったので、クラリと昏倒しそうになる。  怖々と美蝶子さんを見ると案の定、額に青筋を立て眼を三角にしていた。 「服部次長から聞いているわ。あなたが助死師を名乗っているとね」 「私は死送る助死師だ」  ナギサが毅然と答えた。ますます美蝶子さんの表情が険しくなる。  その鋼鉄製ワイヤーのように強靭な神経を逆なでするのは凄いことだ。 「ハッキリ言いますけど、あなた助死師を冒涜しているわ!」 「どういう意味だ?」 「助死師とは、死を迎える人の怖れをやわらげ援助する尊い存在なのよ。 あなたみたいな胡散臭い霊媒師が名乗っていい名前じゃないの」 「私は霊媒師ではない」 「霊の世界なんてあるはずないでしょう」 「白黒の色しか知らぬ者に、カラーの世界は理解できない」
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