第2章 死骸とネコと、半心の悪魔 ─ ケース2 ─

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「助死師の存在を穢さないで! 死の尊厳を弄ばないで!」  まさに一触即発。水と油ならぬ純水と重油であろうか。  僕はたまらず割って入る。 「ま、待ってください2人とも。落ちついて、落ちついて話し合いましょう」  取りあえず2人を引き剥がした。  まだ美蝶子さんの息が荒い。対してナギサはいたって平然としている。 「なぜ美蝶子は怒っているのだ?」 「それはね、僕がお昼休みに帰らなかったからだよ、きっとね」 「こぉら猫屋田!」美蝶子さんが怒鳴る「お前さん、なぜ養護施設に来たんだ?」 「養護施設にいるミヤビちゃんがオバケを怖がっているんです。それでナギサが会いたいと言うので」 「あのな猫屋田、幽霊とか超常現象なんて気の迷いなんだよ。 あたしも臨床心理学を専攻したから、超心理学とか似非科学にウンザリしていたの」 「いや、美蝶子さん。僕はたしかに白姫マサル君の霊を見ましたよ」 「それは恐怖の感染だよ。死に瀕する体験をすると恐怖のフェロモンが分泌されるのよ。 そのフェロモンが空気中に拡散して、それを嗅いだ者の恐怖を司る脳の領域を刺激する。 すると他人の恐怖が伝染するように、あたかも自分自身のごとく追体験するのよ。 だから猫屋田、お前さんはこの女に騙されているだけだよ」  美蝶子さんが理路整然と説く。  それでもナギサは澄ましたままだ。 「私はイサナを騙していない。ただミヤビに会いたいだけだ」 「あなた、どんだけ非常識なの? そんなこと児童相談所が許さないわ」 「大事なのは、常識よりも子どもの安全だろう」  ナギサがいささかも動じずに返した。
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