第2章 死骸とネコと、半心の悪魔 ─ ケース2 ─

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 子どもの安全と言われて、さすがの美蝶子さんも二の句が継げない。  児童相談所は、子どもを保護しないで非難され、子どもを保護してもまた非難される。  裁判所の許可があれば鍵を壊してでも家庭内に入ることがあるが、その積極的介入ゆえに“福祉警察”と揶揄されているのだ。  だから児童福祉司は慎重にならざるを得ない場面が多々あるのだが、ナギサはそれを易々と乗り越えてしまう。  僕たちの社会常識を軽々と踏み越えてしまうのだ。  児童虐待を何よりも憎み嫌う。  子どもの魂を救うことを厭わない。  何が彼女をそこまで掻き立てるのだろうか。  僕はまだナギサのことをよく知らない。  美蝶子さんが口をつぐんでいると、 「ナギサお姉ちゃん!?」  突然として少女の叫ぶ声がした。  声のした方を見やると、そこに驚いた顔をしたユキナちゃんがいた。 「ユキナ、元気でいたか」 「会いたかったよ、お姉ちゃん!」  両手を広げたナギサの胸に、駆けてきたユキナちゃんが飛びこんだ。 「ずっと待っていたんだよ」  抱き合ったナギサとユキナちゃんを見て、美蝶子さんが込み上げたように眼を潤ませた。  普段はキツい言動をしているが、実は浪花節が大好きなのである。 「何でユキナのところに来てくれなかったの?」 「すまない。ユキナと見ていたあの絵本の続きを描いていたのだ」 「あの半分破れた絵本の?」 「ああ。その続きを描くとイサナに約束したのだ」  すると、ユキナちゃんがキッと表情を怖くして僕を睨んだ。  その表情には大人に対する無垢の怒りがあった。 「お姉ちゃんは何でこんなヤツと一緒なの?」 「そんなに怖い顔をするな。イサナほどユキナのことを真剣に考えている者はいない」
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