第2章 死骸とネコと、半心の悪魔 ─ ケース2 ─

12/15
前へ
/184ページ
次へ
「嘘っ、お母さんより?」 「お母さんの次だ」 「お姉ちゃんよりも?」 「ああ、私よりもだ。イサナほど人のために泣く男を見たことがない」  ナギサにそう言われて、ユキナちゃんがそっと横目で窺う。  その眼には怒りの色がやわらいでいた。  僕は膝をついてユキナちゃんを真正面に見る。 「ユキナちゃん、許しておくれ。僕がもっと早く気づいていれば、マサル君やお母さんを救えたかもしれなかったんだ」 「……お兄ちゃん」 「ユキナちゃんは僕が守るから……きっと守るから」  強い言葉とは裏腹に、眼の奥がジンとなり熱いものが零れる。  不甲斐ない自分を叱咤するように堪えるが、それでも感情が溢れて止まなかった。 「なぜそこまでユキナの心配をするの?」  ユキナちゃんが子どもらしい純粋な問いを発した。 「それはね、僕もこの養護施設にいたことがあるからだよ。だから誰よりも親のいない寂しさがわかるんだ」 「お兄ちゃんも……」  ユキナちゃんがつぶやきうつむいて、 「猫屋田、お前……」  美蝶子さんが眼を細めて言葉を呑んだ。 「お兄ちゃん、お願いがあるの」  うつむいていたユキナちゃんが言った。 「あの猫の名刺、もう1つちょうだい」 「うん。喜んで」  ポケットから名刺を取りだし、そっと小さな掌に置いた。 「お兄ちゃん、ミヤビちゃんがね……」  ユキナちゃんがナギサを窺うように口を開いた。 「ミヤビちゃんがどうしたの?」 「ミヤビちゃんがね、オバケが“白い顔をした黒い悪魔が来る”と言ってたって」  僕はナギサの白い顔を見た。  ミヤビちゃんに憑いている霊が語る悪魔とは、果たしてナギサのことだろうか。
/184ページ

最初のコメントを投稿しよう!

40人が本棚に入れています
本棚に追加