第2章 死骸とネコと、半心の悪魔 ─ ケース2 ─

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 美蝶子さんが悪魔と聞いて血相を変える。 「と、とにかく、あなたを施設に入れることはできません!」  やはり3年前の無理心中事件は、ナギサが原因の一端を担っていると推測したのだろう。  そのトラウマがミヤビちゃんを苦しめていると考えるのは、あながち的外れな論法ではないはずだ。 「わかった。私は帰ることにする」  ナギサが口惜しそうに言うと、きびすを返して道を戻り始めた。  ワルキューレも名残惜しそうに「にゃう」と一声鳴くと、トコトコとナギサの後を追うように歩く。 「ナギサ……」  僕は呼び止めるように声をもらすが、彼女は振り返りもせず歩み去った。  その夜のことである。  夕食後に読書をする母の肩もみをしていたときだ。 「あの養護施設に行ってきたのね」  昼間のことを話すと、母が懐かしそうにこぼした。もちろんナギサのことは言ってない。 「イサナちゃん、あそこからウチに来たときは、あまり話してくれなくて寂しかったわ」 「は、恥ずかしかったんだよ、きっと」  照れくさくて揉む手に力を込めた。  僕は唯一の肉親である母を幼いときに亡くしている。  母は薬物中毒の末、閉鎖病棟で憤死した。  それまで僕は母の虐待を受けて、半死半生の状態で児童相談所に保護されていた。  母を亡くして養護施設で生活したが、ある児童福祉司の仲介による里親養子縁組で、育ての親である猫屋田の夫婦を紹介されたのである。 「それでもね、あたしたちが嫌いなのかとヤキモキしたわ」 「ごめんね、本当に素直じゃなくて」  あの頃のことはよく憶えていないが、まるで貰い物のように扱われるのが子供心に嫌だった記憶がある。
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