第1章 死送る者のレゾンデートル ─ ケース1 ─

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 自分で絡んできたくせに、いくら美人でもアラサーになると性格が歪むのだろうか。 「美蝶子さんが勉強って、それはスーパーバイザーのですか?」 「あたしみたいな完璧美人なら楽ショーだけどね。着慣れぬスーツで袖が長くて、手の甲が隠れてる新米社会人とは違うから」  美人が社会の頂点に君臨しているような言葉だ。  美人の悪態を聞くのは役得だけど、それも毎日恒例の会話だと慣れてしまう。  美蝶子さんは児童心理司で、心理学的手法を用いながら子どもが今どういった問題と向き合っているのか言葉にできない心の葛藤を、丁寧に聞き取りながら子どもや保護者と向き合っていくソーシャルワーカーだ。  今は児童相談所経験5年以上の者が就けるスーパーバイザーという専門職員を目指している。 「それより猫屋田、午前中で家庭訪問に行くから公用車の運行命令は書いたか?」 「先週出しました。大丈夫です」 「ご苦労。言いつけ通りやってるな。それから──」 「朝の30分は夜の1時間の価値がある──就業時に比べて、始業時前に通告電話が来ることは少ないからですね。始業前に事務処理を片づけます」 「児童福祉司はいくら時間があっても足りないからね」  児童福祉司は、保護者や近隣の関係者から子どもに関するあらゆる相談に応じる、「子どもの最善の利益」を常に念頭において働くソーシャルワーカーだ。  例えば虐待や非行相談、保護者の病気や家出、死亡等で子どもを養育できないという養育相談。子どもの性格行動や不登校等の育成相談。自閉症やアスペルガー、ADHD(行動障害)等の発達障害相談。これら子どもの障害についての相談に応じている。  それゆえに業務は多忙を極める。
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