第2章 死骸とネコと、半心の悪魔 ─ ケース3 ─

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 そんな僕の表情を見て取ったのか、美蝶子さんが怪訝な表情で訊ねる。 「無理っぽいか?」 「だ、大丈夫です。僕の担当地域なので行きます」  天使のようなアエカちゃんの相貌を思い浮かべながら、それを励みに行くと心を奮い立たせた。 「んじゃヨロシクね」  ぶきっちょな表情をしているであろう僕に、美蝶子さんが満面の笑みで送りだした。 (しまった。美人の笑顔にまんまと騙された感がある)  自転車で赤海家に向かうが、また怒鳴られたら心が折れるなとげんなりしていた。  いや、刃物で脅されたり、脅迫を受けないだけマシかもしれない。  児童福祉司のなかには、保護者とのトラブルで抗鬱状態になり辞職する者もいるという。  母親の理恵花さんと口論になった場合のことをアレコレ考えると、段々とペダルを踏む足が重くなってくる。 (いやいや、あまり深く考えるな。それこそ千慮の一矢ではないか。ポジティブに考えるんだイサナ)  心が沈まないように無理矢理に自分を励ます。  やがて赤海家の邸宅が見えてくると、玄関の前に1人の少女が佇んでいるのがわかった。  遠目にも天使のように清らかな相貌は、双子姉妹の姉であるアエカちゃんだ。  もっとも瓜二つの一卵性双生児なので、その純粋で無垢な雰囲気で姉であると知れる。  どうやら1人で遊んでいるようだ。 「こんにちは、アエカちゃんだね。相談所の猫屋田だよ」 「あっ、この前のお兄さんですね」  アエカちゃんがやっと気づいたように微笑んだ。妹のアケミちゃんは見当たらない。 「今日は1人なんだね。お母さんいるかな?」
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