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「ママはいつも留守にしがちで、今も出掛けています。妹は……」
アエカちゃんが言葉を濁らせ表情を曇らせる。
「妹さんのアケミちゃん、どうしたのかな?」
自転車から降りて訊くと、さらに表情を硬くしてうつむいてしまった。
この聡明で素直な少女が、これほど言いづらそうにしているのは只事ではない。
よほど深刻な事情があるに違いない。
「アエカちゃん、妹さんに何かあったのかな?」
怯えさせないように努めて冷静に訊ねた。
「猫屋田さん……許してください」
アエカちゃんが顔を上げる。その大きな眼にはうっすらと涙が溜まっていた。
「ど、どうしたの!?」
僕は声を荒げて訊いてしまった。
「……猫屋田さんに嘘をついていました」
アエカちゃんが涙をこぼさないようにしながら告げた。
「僕に嘘を……?」
「はい。ママの前では言えませんでした。だって、ママがすごく怒るからです」
「理恵花さんが怒るって、何かいけないことをしたのかな?」
「いけないことをしたのは、このわたしです」
「アエカちゃんが……いけないこと?」
「はい。猫屋田さんがこの前うちに来たときに、妹のアケミがいましたよね?」
「うん。アエカちゃんが呼んでくれて、僕はアケミちゃんに会ったよ」
「ごめんなさい。わたしは嘘をついていました。あれはアケミではありません」
「アエカちゃんが嘘……アケミちゃんじゃない……?」
僕は頭が混乱して思考がぶつ切りになった。
「あのアケミは、わたしが演じていたんです。アケミには何日も会っていません」
「ど、どういうことなのッ!?」
「ママがアケミを閉じこめているんです。猫屋田さん、助けてください!」
アエカちゃんが大粒の涙をこぼして叫んだ。
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