第2章 死骸とネコと、半心の悪魔 ─ ケース3 ─

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「理恵花さんがアケミちゃんを……それって部屋に閉じこめているのかい?」  幼い子どもと知りながら続けて詰問した。  そんな馬鹿なと思いながら、この前に見たパタパタと歩く白い足が脳裡をよぎる。 「ママはアケミを知らんぷりするんです、まるでアケミがいないかのように。 それでママにアケミを忘れないように、わたしがアケミを演じて思い出させていました」 「それでアケミちゃんの食事とかどうしてるの?」 「思い出したようにママが出していましたが、それも最近は持って行っていないみたいなんです。 アケミの部屋に行きたいのに、ママの部屋が隣にあるから行けないの」  隣街で見た監禁された子どもの腕が、ありありと眼前に甦る。  赤、紫、緑、黄色に内出血した痣の重ね色が。  朽ちた樹のように枯れて裂けそうな皮膚が。  救いを請い求めて震える小さなてのひらが。  その虐待にまみれた腕が、「助けて」と掴むように眼前に迫る。 「ど、どうして理恵花さんは、そ、そんなことを……?」  心臓が迫り上がるような恐怖が、喉元をとおって掠れた声になった。 「わたしがいけないんです。同じ双子で同じ姉妹なのに、姉で聞き分けが良いというだけでママはわたしを可愛がるんです。 妹のアケミを存在しないかのように、まるでゴミのように扱うのが耐えられない」 「アケミちゃんだって同じ人間だよ。それなのに差別していいワケがない。 子どもが生まれてくるのは愛されるためなんだッ!」  堪らずに叫んでいた。 「ママは心が半分しかない悪魔なの。だからお願いです。妹を救って……」  アエカちゃんが泣き崩れるのを、僕は必死になって支える。  その小さくはかない身体は熱く、悲しみに打ち震えていた。 「待ってて、必ず救い──」
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