第2章 死骸とネコと、半心の悪魔 ─ ケース3 ─

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 言いかけた言葉を、化鳥のような叫声が遮る。 「娘から離れなさいっ!!」  そこに母親の理恵花さんが仁王立ちして睨んでいた。  その顔には、般若のように怒りに歪んだ表情が半分あり、残りの半分は空虚な無表情に固まっている。  その半怒半無の相貌が、ひどくグロテスクに見えた。 「娘のアエカから離れてっ! お前のような凡人が触っていい子どもじゃないのよっ!!」  半怒で眼を吊り上げ口角泡を飛ばし、半無は虚ろな眼で僕たち2人を映している。 「お、落ちついてください、お願いですから理恵花さんッ」 「黙れ、この人さらいがっ! 許さないから、天才のアエカを奪う者は誰であろうと許さないっ!!」  理恵花さんが憤怒で焼き切れそう眼で、手にしたハンドバッグに視線を落とした。  そのハンドバッグをまさぐりながら何かを探している。ヤバい、凶器か!? 「り、理恵花さん、待ってください。誤解です、また来ますからッ!」 「キィーッ! 許さないっ!!」  完全に我を失っている。  僕は何度も頭を下げながら、ほうほうの体で赤海家から退散した。  アエカちゃんはうずくまり背を向けたままだ。 (待っていて、アケミちゃん、アエカちゃん。必ず救いだすからね!)  何度も心で誓いながらペダルを漕いだ。  震える手で携帯を取りだすと、 「も、もしもし、美蝶子さん! 大変です、赤海家のアケミちゃんが監禁されている疑いがありますッ!」 「落ち着け猫屋田。とにかく合流し──」  携帯の向こうの声が低くなり、「プッ、プッ」という音が重なった。キャッチホンである。 「ち、ちょっと待ってください、キャッチが入りました」  謝りながらキャッチを繋ぐと、 「お兄ちゃん助けて! ミヤビちゃんがオバケに乗っ取られちゃうっ!!」  まるで悲鳴のような、それはユキナちゃんからの叫びだった。
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