第2章 死骸とネコと、半心の悪魔 ─ ケース3 ─

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「ユキナちゃん! どうしたの、何があったのッ!?」 「オバケが暴れているの、ミヤビちゃんが壊れちゃうよっ!」  悲痛な叫びが胸を打つ。鼓動が速すぎて息が詰まり、愕然となるあまり恐怖で凍りつきそうになった。 「お兄ちゃん信じて、ユキナを信じて!」 「信じるから、ユキナちゃんを信じるから待っていて!」  そう叫ぶと同時に、プツリと通話が切れた。  その音が耳元でリフレインしているが、遠のくにつれて焦燥がいや増して大きくなる。 「猫屋田、どうしたんだ? 何があった?」  美蝶子さんが訝しげに訊く声が遠い。 「ユキナちゃんから電話で、養護施設のミヤビちゃんが危ないとッ」 「養護施設で!? よし、猫屋田は養護施設に向かえ!」 「で、でも赤海家は?」 「それは相談所に帰って、立ち入り調査の許可を所長に頼むから」  児童虐待防止法で、児童虐待が行われているおそれがあると認めるときに、子どもの居所に立ち入り調査ができるのだ。  立ち入り調査の必要な場合には、都道府県知事または児童相談所長の指示のもとに実施しなければならないのである。 「猫屋田は、あの娘を連れて養護施設に走れ!」  美蝶子さんが携帯の向こうで叫んだ。 (そうだ、僕だけでは解決できない。ナギサを連れて行かないと)  僕は指示に従って自転車で駆けた。  目的地は『香処 卦限儀』──ナギサがアルバイトする店だ。  だが、ナギサを信じていいのだろうか。 “白い顔をした黒い悪魔が来る”  ミヤビちゃんが告げた言葉が、頭の裡で鐘音のように甦った。
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