第2章 死骸とネコと、半心の悪魔 ─ ケース3 ─

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 また3年前と同じ結果になるのではないか。  またユキナちゃんを悲しませてしまうのではないか。  そんな懸念がいたずらに胸を掻き回した。  ほどなく自転車は、青磁色をした店に着いた。 「いらっしゃいませ。おや、イサナ君じゃないですか」  店に入ると八分儀さんが出迎えた。 「……ナギサ、いますか?」 「ナギサなら奥にいるけど、どうしたんだい血相変えて?」  僕は黙したまま、奥に座るナギサを見やった。  彼女がうつむいて何かを必死にやっている。  おずおずと覗き込むと、それは絵本の絵を描いていた。  感情を線にして、想いを色に乗せて、心を絞り出すように、絵を描いていたのだ。 「イサナ、どうしたのだ?」  ナギサがやっと気づいたように訊いた。 「……ナギサ、ごめんなさい」 「どうしたのだイサナ、何かあったのか?」  ナギサがまた訊いた。  おそらく、目の前に立つ眼を真っ赤にして震えている僕を不審に思っているのだろう。 「謝らずにはいられなかった。心はかたちのないものだから、言葉にしないと伝わらないから」 「どうしたのだ?」 「ナギサ、君が必要なんだ!」 「何があったのだっ!?」 「ユキナちゃんから電話があった。ミヤビちゃんが危ないんだッ」 「それで……私にどうしろと? また追い返されるのではないか」 「お願いだッ。僕ではミヤビちゃんを救えない。それができるのはナギサしかいないんだ!」  僕はひざまづき頭を下げて懇願した。それしか思いつかない。ほとんど衝動的にひざを折っていたんだ。
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