第2章 死骸とネコと、半心の悪魔 ─ ケース3 ─

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「馬鹿、頭を上げろ」  ナギサが困惑したようにつぶやいた。 「ナギサ、来てくれるかい?」  ようやく身体を起こすと、ナギサがうなずいた。 「カオル、仕事をサボるぞ」 「カオルじゃなくて店長だよ。堂々と言われるとやぶさかだけど、友達の頼みなら仕方ないんじゃない」 「友達……何だそれは?」 「恥も外聞もなく、心を割って話せる間柄の人さ」 「ああ、ならばイサナは友達だな」  ナギサがはにかんだように言った。 「ナギサ、来てくれるのかい?」 「イサナの頼みだからな。ワルキューレ行くぞ」  ナギサが呼ぶと、「みゃう」と黒猫が躍りでた。やっと出番かと尻尾を立てる。 「イサナ、連れて行ってくれ!」  ナギサが強く言った。  僕はナギサを連れて街を駆け、ひっそりと佇む養護施設に入った。 「お兄ちゃん、ナギサお姉ちゃん!」  奥の廊下からユキナちゃんが走ってきた。 「ユキナちゃん、ミヤビちゃんはどこだい?」 「部屋にいるけど……」  ユキナちゃんが言い澱み、つと後ろを振り返った。  その方向には施設の職員が集まって、こちらを訝しげな眼で見ている。  それは困惑と不審に彩られた眼で、冷たい色をして僕たちを映していた。  やがて、この前ミヤビちゃんを介抱していた保育士の女性が近づいてくる。 「あの……何の用ですか?」 「ユキナちゃんから電話をもらい心配して来ました。子どもを守るのが児童福祉司の仕事です。 お願いですから通してもらえませんか」  頭を下げながら説明するが、保育士は眉をひそめたままである。
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