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「ミヤビちゃんはパニックを起こしているだけです。
いくら相談所の児童福祉司でも、いきなり押しかけてくるなんて越権行為ではありませんか」
「いや、僕はミヤビちゃんが心配で、それで急いで来たのです」
「その女性は部外者ではありませんか。いくら何でも常識がなさ過ぎじゃないですかっ」
保育士の語気が荒くなってきた。やはり非常識に映るのだろう。
「信じて、ユキナは嘘をついていないよ!」
ユキナちゃんが必死に訴えるが、
「もうお引き取りください。施設のスタッフが責任持って、ミヤビちゃんを守りますので」
保育士は事務的な対応で僕たちを追い払おうとする。
「退いてくれ。私はミヤビを助けに来たのだ」
ナギサが強い口調でズイッと前に進むと、
「ちょっ待っ、非常識過ぎますよっ!」
保育士は目を白黒させて制止した。
さすがに強引過ぎるかと二の足を踏んでいると、
「通してあげてくださいな」
突然として声が湧いた。
声に釣られて振り向くと、そこに長田所長がいた。
「非常時には非常手段ですよ。この事態は我々では手に負えないですから」
「けれど所長、そんな横暴が──」
「私の権限で彼らを許可します。ですから、ここは私に任せてくれませんか」
長田所長が穏やかな口調で、激昂する保育士をいなした。
「それにしても、イサナ君は良い児童福祉司になった。そして──」
長田所長が言葉の途中でナギサを見た。
「そしてナギサ君も、あれから随分と経ちますが立派になりましたね」
「長田所長はナギサを知っているのですかッ?」
僕は驚いて声をあげると、
「知っていますとも。ナギサ君はこの施設で育ったのですからね」
大きくなった子どもを喜ぶように、長田所長が眼を細めながら答えた。
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