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「なんで? 他に好きなやつでもいるのか?」
不躾な質問だとは思ったが、俺は聞かずにはいられなかった。
他に好きなやつがいるなら諦めもつく――そう思っていたのだが、彼女の答えは予想もつかないものだった。
「私、月に帰らなくちゃいけないんだ」
「……は?」
「私ね、月の世界の住人なの」
からかっているのだと思った。そんな事を真面目にいう人間がいるわけない。
「俺の事、からかってる?」
「えっ?」
「断るなら、もっといい理由考えたって……!」
俺は腹立たしくなって声を荒げた。
だが、彼女は悲しそうに小さな声で言った。
「からかってないよ。ホントのこと。信じてもらえないのは分かってる」
「だって、誰がそんなの信じるんだよ?」
「そうだよね……。でも、かぐや姫の話が本当だとしたら、どう思う?」
「えっ?」
「あれはただのおとぎ話じゃない。事実なのよ」
「マジかよ……」
にわかには信じられないが、確かかぐや姫の話『竹取物語』は作者不詳だった気がする。
それを考えたら、この話が事実をもとに書かれたとしても不思議ではない。
そんな事を考えていると、急に辺りが明るくなった。
「な、なんだ?」
「いけない。もう迎えが……」
空を見上げ、彼女がハッとした表情になる。
俺もを見上げてみると、満月の輝きの中に何か黒い影が見えた。
それはユラユラと動きながらこちらに向かっている。
「嘘だろ……」
向かってくるのが数十人の人影だと分かり、俺は思わずそう呟いていた。
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