プロローグ

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「早紀(さき)」 大切な人の名前を口にすると、それだけで目頭が熱くなる。 だけど奥歯を噛みしめて泣くのをグッとこらえた。 泣くべきなのは、私じゃない。 社の前にある三段だけの階段に腰掛け、街を眺める。 早紀がいなくなってから色あせてしまった景色は、再び輝くことがあるのだろうか。 「うーん」 思いきり伸びをして大きく息を吸い込むと、木々が生い茂り太陽の光を遮っているせいで、ほんのり冷えた空気が肺にピューっと入ってきた。 手にした紅葉の葉を空に掲げてみる。 つい最近まであの木にくっついて生きていたんだなと思うと、ちょっとセンチメンタルな気分になる。 命には限りがあることなんてわかりきっているのに、それがとても残酷なことのような気がしてきた。
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