第一章:屋上にぶら下がる

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彼女は名探偵と称されながらも、殺人鬼だ。ただ、なぜ殺すのかは解っていない。  僕と彼女が出会ったのは高校生になって、図書委員をやり始めてからだった。静かな誰もいない図書室に彼女は毎日通っては本を借りていた。 初めて彼女を見た時に少しデジャブを感じたものの、僕はたった三年しか違わないにも関わらず大人びた彼女の雰囲気に恋に似たトキメキと、緊張感を持っていた。 それは憧れに近いものだったのかもしれない。 まぁ、その感情は半年も経たずに消えてしまうのだけれど……。  高校に慣れたきた七月の放課後。僕は図書委員の活動を終えて帰宅しようとした時だった。ショートカットにチョーカーを首に付けた佐藤ミクが屋上に続く階段を上っていくのが見える。  この学校は三階建てで三階に図書室がある。その上の階は何もないただの屋上だ。しかも、屋上と言っても出られるわけではなく、ただ屋上手前の踊り場に出るだけだ。 そんな場所に彼女がなんの用があるんだろう。  興味本位が勝った僕は彼女の後を見つからないようにゆっくりとつけてみる。その時まではいつも本を借りる彼女に憧れのような感情を抱いていたのは確かだ。もしかしたら僕は無意識のうちによからぬ感情を抱いていたのかもしれない。 屋上の踊り場をゆっくりと階段越しに覗き込むと、いつも閉まっているはずの屋上の鍵が開かれていて、そこからは夏を感じさせる匂いが風とともに吹いている。 「え?」っと一瞬だけ声を発して驚いたものの、僕は彼女の姿が見えないのを確認して、そのまま階段を昇り始める。そして、登りきった先にあったのは広がる放課後の空と何もない雨があがったあとの屋上だ。 一歩、屋上に誘われるようにして踏み出してみる。湿った空気が肌に纏わりつくような気がした。ふと視界の隅で何かが動いて、そっと僕は首だけを横に向けてみると、そこには佐藤さんとフェンスにネクタイをぶら下げて首を括って息絶えている男子生徒が目に入ってきた。  突然の出来事に驚き後ずさると、ソレに合わせて佐藤さんは僕の方へと振り返る。その顔はとても楽しそうな笑顔だった。 彼女は死体を愛しているように僕には映った――。 しかし、その笑顔は僕を見つけた瞬間に固まりついて、その後に困ったような表情を映し出す。屋上までつけてきた僕に彼女は全く気付かなかったみたいだ。多分、なんとなく振り返ったら僕がいたのだろう。
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