第一章:屋上にぶら下がる

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僕は彼女の透き通る白い肌から見える大人びた顔を見ながらも、頭の中は真っ白だった。 学校に死体がある。しかも、同じ制服を着ている。 自殺なのかそれとも他殺なのか。よく読んでいる推理小説の内容が意味もなく頭の中を横切っていく。 頭の中を目まぐるしく回る僕の状況は彼女の言葉によって停止した。 「君は、ええと。見たことある。うん、誰だったっけ?」 「秋津です。一年の、図書委員の――」 「ああ、思い出した。うん、いつも図書室で本を貸出してる子だね、覚えてる覚えてる。男なのがもったいないくらいに可愛いのだけは覚えてる」 「なんですかそれ……」 「君、身長低いし女顔だからね。男の人って嫌いなんだけど、君は抵抗なかったから助かったよ」 「あの、そんなことより、その人って」 「死んでるよ」 「そ、それなら先生呼んできますね」 そう言って僕が階段から降りようと彼女に背を向けた瞬間、彼女は「待って」と僕を呼び止めた。その声は透き通っていて、まるで耳元で囁かれているようなそんな感じがして僕は背筋がゾクリと逆毛が立つ感触がした。 「秋津君はなんでここに来たのかな?」 「え?」 「私はね、下校しようとしたら屋上に不思議な物が見えて調べに来たんだ。それで、君は?」 佐藤さんの視線は後ろを向いていても解る程の冷たい。まるで探偵が容疑者を見るような、狩人が獲物を見るようなそんな視線を感じる。 僕は振り返ることもできないまま、何か言わないとと考え始めた。嫌な汗が手に滲むのが解る。このままだと僕が怪しまれてしまう。 「ぼ、僕は。佐藤さんがここに来るのが見えて、それで不思議に思って」 「後をつけてきた……と?」 「ごめんなさい」 「なるほど」そう言った彼女は僕の言葉を信じたようにポツリと頷く。振り返るべきか振り返らないで置くべきか悩んでいると、佐藤さんの冷たい視線は外れて、その後に彼女が動いた足音が聞えた。 どうやら、僕への疑いは晴れたのだろう。いや、尾行することも褒められたものではないけれど。そう思いながら僕は視線が外れたであろう彼女の方へと振り返った。 「あ――」 視線は逸らされていなかった。それどころか佐藤さんは数歩ほど僕に近づいていた。その表情はとても冷たい。風に煽られて軽く彼女から石鹸の匂いが僕の鼻へと漂う。
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