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そう言うと、彼女はスカートのポケットから四つ折りに折られた大学ノートの切れ端を取り出した。そして、僕からいともたやすく視線を外すと、首を括っている男子生徒の元に行きその遺書をポケットの中へと入れる。
「え?」
これじゃまるで――彼女が殺して、それを自殺に見せかけるようにしてるみたいじゃないか。いや、いくら何でもそれは突飛すぎるのか?
僕が屋上に上がるまでの間に屋上にいた生徒の首を絞めて殺すなんて、斉藤さんの細腕で出来るはずがない。
それに、死体は雨でびしょびしょに濡れていた。それに対して、当然だけれど佐藤さんは濡れていない。
でも、それならなんで遺書を持っているんだ。
それに先ほどの彼女の視線はまるで殺人鬼のような雰囲気だった。いや、殺人鬼に会ったことは今までないけれど。短い人生の中で感じた最大の恐怖を彼女から僕は感じていた。
もう憧れとか恋心なんていう柔らかい気持ちはどこかに飛んでいってしまっている。
僕はよろめくきながら、死体のすぐ傍にいる佐藤さんへと近づくと、彼女はしゃがんで死体を嬉しそうに愛でている最中だった。
「あの、まさかですけど」
僕は何と言ったらいいか解らずに立ち止まる。佐藤さんが殺したんですか。なんて言えるはずがない。
「私が殺したんだとしたら、秋津君はどうするのかな?」
彼女は死体を愛でながら悪戯そうに笑う。その姿は魔女のような印象を僕には感じさせる。
もし、そうなら警察に知らせないと。いや、その前に彼女から逃げるのが先だ。いや、そうじゃない。寧ろこれは悪い冗談なのかもしれない。
駆け巡る頭の中を必死に整理しようとする。それでも、僕にはどうしても彼女が殺したようにしか見えなくなっていた。
自然と足が後ろの方へと下がる。僕が今、彼女に感じているのは今までにない恐怖心。ただそれだけだった。それに反して佐藤さんは苦笑いを浮かべながら振り返ると、首を左右に振って僕の方を見た。
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