第一夜

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「昨夜。深夜2時から3時半頃。東京世田谷区○○○で、新宿を震撼させた連続放火犯の持永 義弘(もちなが よしひろ)35歳が、何者かによって殺害されているのを、早朝ジョギング中の男性が発見しました。持永容疑者は3年で60件の放火を行い。世間を騒がしていたようです。全身をナイフで数十カ所刺され、警察の調べによりますと、失血によるショック死のようです。犯人は未だ逃亡中。警察は怨恨の線で世田谷区に特別捜査本部を設け、付近の聞き込み調査で情報を集めようと……」  昨日張り込みをしていた世田谷区の住宅街で、一人のリポーターが話している。  俺は警察より先に犯人を捜すことができる。  依頼主に電話で今日、会うことをキャンセルして。  タバコを缶ビールの蓋でもみ消し、朝食のバナナとコーヒーを空きっ腹に入れると外へと出た。  外は重い空気が厚い雲によって鬱屈していた。  気温は真夏日だが、28度。  生暖かい風が世田谷区を包み込んでいた。  俺の頭は打算的に、おんぼろアパートのチャイムを押した。 「なんだ?」  玄関から出て来たのは、兄の武田 正弘(まさひろ)だ。  無精ひげが生えわたり、髪はぼさぼさで低い身長。実は、警視庁捜査一課に昔、所属していた敏腕刑事だった。  三年前に警察の仕事に何故か嫌気がさしたとかで、今の探偵の職をしていた。 「調べたい人物がいる。入ってもいいか?」  俺は兄の家に勝手に上り、ちゃぶ台とテレビしかない間でスマホを兄に見てもらった。 「ほうほう。でかした! こいつが犯人か! 今から行くか?」  兄は正義感が人一倍ある人だった。  この世界では、それでは金にならない。 「待て。兄貴には悪いがこの女から金を絞りたいんだ。兄貴は黙っていろ。この女を探してくれればいいんだ」 「それはダメだ。俺はここ三年で起きた事件は全て調べている。この事件は怨恨なのは解るんだ。何故かと言うとその女は持永の女友達の一人だ。それにその女は金なんてないぞ。金は持永に全て奪われている。持永はモテて女友達から金を搾取して、今まで逃げ回っていた。一日たりとも寝床が同じところではなかったから、今まで警察は捕まえられなかったんだ。俺もその一人だ」  兄は無精ひげを上下にしながら話した。  その熱弁は昔、刑事だった頃のそのままだ。  俺はがっかりした。
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