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#01. FREE STYLE
首都東京の東側にラジオ局、FMジャンクションの本社は位置している。最上階にあるスタジオの大きな窓からは、階下にキラキラとした水面の隅田川。
そして、まるでフォークで巻いたスパゲッティのように。複雑かつ滑らかに車線が入り組む首都高速の箱崎ジャンクションが見える。局のネーミングも、それが由来だ。
富田
「時刻は3時48分になろうとしています。
1時から富田優司がお届けして参りましたFMジャンクション、アフタヌーン・カフェ水曜日。間もなくお別れの時刻です…」
据え置きのマイクを無理矢理手に持ち、出窓状になっている窓枠に腰掛けているパーソナリティの富田優司。
若者らしい装いであるが、大学を中退してまで地方でDJの腕を磨いてきた、局がイチ押しするフリーDJである。
マイクと一緒に持っている、タイミングモニターの表示を見てから窓枠から飛び降りて足早に席へと戻る。
富田
「なんか…今日はあっという間の3時間だったね。
箱崎から見える空は…まだ暑そうですね。この暑さも、いつまで続くのでしょうか。
室内のかたは適度なエアコンを。屋外のかたは、こまめに水分補給をお忘れなく。
この後、4時からはFMジャンクション仲元智海さんがお届けする『クリスタル・ブリーズ』でお楽しみください」
次の生放送の番組のために、すでにスタジオに入って準備をしているFMジャンクションの女性アナウンサー、仲元智海に向かって軽く右手を挙げる優司。
それに応えるように、智海はプラスティック容器のアイスティをストローで吸いながら小さく会釈をする。
富田
「その後、5時からは渋谷FMJスタジオからFMジャンクション斎藤真樹と僕、富田優司でお送りするジャム・ジャム・ジャンクションでお楽しみください。
今日も皆様からのリクエスト、お待ちしておりますよ。
FMジャンクション、アフタヌーン・カフェ。水曜日のお相手は、富田優司でした。ではまた、1時間後──」
流暢にシメの挨拶を済ませて、マイクのボリュームをオフにする優司。
それはまるで何かの「御作法」のようにも見える雅やかな動きだ。だがそれもオンエアー上でCMが流れるのを確認するまで。
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