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「失礼しまーす……」
ドアを押さえてくれていた女の子の隣をすり抜け、優司は放送研究部の部室に足を踏み入れる。
それほど広くない部屋の真ん中に長テーブルが2つ突き合わせてあり、そして体育館から拝借してきたと思われるパイプ椅子が3つずつ向かい合わせにされている。
ミーティングスペースだろうか、書類が散乱していてお世辞にもきれいな場所とは言えない。
「ごめんなさい。今朝は授業開始の直前までミーティングをしていたものだから」
女の子がテーブルの上の書類をまとめながら言う。そして奥にあるドアの向こうへと消えてしまった。
なんか…… 落ち着かないな。とりあえず目の前のパイプ椅子に腰掛けようとしたその時である。
「ゴメン、マキちゃん。ホームルームが長引いちゃって。うわっ!」
勢い良く入口のドアが開いて男子生徒が入って来た。
部室にいた人影が自分が話しかけている対象ではなかったことに、ひどく驚いているようである。
「あの…… えっと……」
初対面の2人が微妙な距離で立ちすくむ。
「えっと…… 昼休みの放送を聴きまして。入部を希望したくてここまで来たのですが」
「…… どうやって部室に?」
「ドアの前にいたら、女性のかたが……」
と言って、優司は女の子が消えて行った奥のドアを指差す。タイミング良く、そのドアが開いて、さっきの女の子が現れた。
「ゴメン…… テーブル、片付けてくれたんだね」
「それより、入部希望者ですって。どうする?」
「そうだった。まぁ、散らかっているけど座って。僕は3年で部長の市村です。君は?1年生?」
優司に着席を促した場所の向かい側に腰掛ける部長、市村。そしてなぜか、その隣にさきほどの女の子も腰を掛ける。
「はい。今年入学しました、富田優司と言います」
「お昼の放送聴いて、って言ってたけど、経験…… なんてないよね。この部内での担当は大きく分けて3つあって。
企画・構成、音響、そしてナレーション── いわゆるDJってヤツだけど、どれかに興味を持っているのかな?」
「俺は……」
優司は1つ、大きく深呼吸をする。
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