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「喋りたいです。音楽── 特に洋楽の知識は人並み以上に持っているつもりです。それを聴いている人達に伝える術…… 斎藤さんの放送を聴いてて、それを勉強してみたくなりました」
なるほど…… と呟いて市村は頭を抱える。
「いいんじゃない?早速、オーディションしてみましょうよ」
隣の女の子が表情を変えずに言う。すると市村はハッとしたように顔を上げてウンウンと何度も頷く。
そうだ。そうだっけ。以前にも同じようなことがあったじゃないか。パッと見DJなんて務まるわけないだろう?ってヤツが、喋ってみたらものすごい知識と技術を持ってたりするじゃないか。
「うん。富田くん。早速、喋ってみてもらっていいですか?」
え?今から?
女の子によって奥の部屋へ通される優司。昇降口の外が見下ろせる窓は小さく、電気を点けなければ薄暗く感じる小さな空間。
その中央に教室で使う普通の机が向かい合わせに2つ。その上にはマイクと小さな機材が置かれている。
そこからは黒いコードが蛇のように床をうねり、そして壁の中に消えている。
外に向いている窓の反対側にはハメ殺しのガラス。その向こうに明かりが灯り、市村の姿が映る。
「座って…… これ付けて」
女の子がヘッドフォンを渡してくれるので、言われるがままに頭に装着して席に座る。
そしてヘッドフォンから伸びるケーブルを視界の邪魔にならないように右手で払い除けた。
あれ?このコはどうして俺の向かいに座っているの?それもヘッドフォンを付けて。
《富田くん、聞こえる?聞こえたらマイクに向かって何か喋ってみて》
「こ…… これでいいですか?」
市村の指示どおりマイクに向かって言葉を発する。自分の声がヘッドフォンからも聞こえるので、どこか不思議な感覚だ。
《OK。じゃあ、どんな感じで行ってみようか。マキちゃん》
「えー?ふつーにアタシのパートナーが決まりました!みたいな感じでいいんじゃない?」
え…… えぇ?ちょ…… ちょっと待って!
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