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「あの人、嫌い」
中庭でみんなでランチタイム中。
たまたま見かけた吉良先輩の話になった。
カッコいいだの、クールだの、みんなが楽しそうに話している中。
あたしの口からは、そんな可愛くない言葉しか出てこない。
それはただたんに、自分のココロの中を隠すため。
先輩のことが気になってるだなんて、誰にも知られたくないって気持ちだけで。
簡単に口から零れる“嫌い”って一言。
だけど、言ったあとにいつも少し後悔するの。
こんなただの悪口だもの。
「葵ってホント先輩のこと毛嫌いしてるよね」
あたしがそう言うのは珍しいことでもなくて。
友だちも、また言ってる…くらいにしか思っていない。
それこそ初めのころは、何かあったの? なんて聞かれることもあったけれど。
今では、いつものことだとばかりに、あたしの言葉なんてサラリと流されて。
もう他の話題で盛り上がり始めていた。
中庭にみんなの笑い声が響き渡る。
他にも生徒の楽しそうな話し声が聞こえてた。
みんなの笑い声に合わせて、あたしも一緒に笑うけれど。
会話の内容なんて何も入ってこないため、ただの笑ったフリ。
みんなにバレないように、小さな溜息を吐いてしまうと。
隣に座る親友の美帆は、チラリとあたしを盗み見したあとに苦笑いしていた。
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