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「……やっとか」
「うん。では、問題。……生徒や先生の記憶を改ざんした。田淵君から女の子を奪った。では、そんな事をした有栖川仁の目的は何でしょう?」
「……え……」
俺たちはついに自分の教室の前まで来ていた。
ホームルームは既に始まっており、中から担任教師の聞き慣れた声が聞こえる。
俺はドアに手をかけていたが、奴の言葉が気にかかり、ドアを開けるのをためらった。つい振り返って相対してしまった。
こうして奴の顔をまじまじと見ると、やはり顔のパーツがずれているなんてことはなく、見れば見るほど整った顔立ちであることを実感した。
「目的って……」
よもやそこまで考えていたとは驚いた。
きちんと妄想に終着点が与えられていたのだ。唐突に、妄想が現実味を帯びてきた様に感じられる。
しかしまあ、そこはやはり他人の妄想であるからして、俺には妄想の内容について予想がつくはずもない。
「…………」
「…………」
だが、しばらく待っても奴は口を開かない。前の問題ではすぐに答えを言ったのに、どうしたことか。
俺は答えを促した。しかし、なんと奴はそれを断った。
「……じゃあたぶちくん、この問題については、しばらく考える時間をあげる。……そうだな、田淵君が僕から女の子たちを取り返したら、答えを教えてあげるよ」
「あ……?」
そう言って奴は俺をすり抜け、教室のドアを開け、先んじて一人で入っていった。
がらら、と音を立てて開けたため、そこに居た全員が奴を注目していた。多数の視線が体に突き刺さるようで、あんな風に見つめられたら、俺はさぞかしきまりが悪かろうと思った。
ここは空気を読んで後ろから入るべきところなのに、なぜこいつは前の入り口から堂々と入っていくのか。
奴の登場で、教室のあちこちから押し殺した笑い声が聞こえた。野次を飛ばす輩までいる。
けれど、クラスメイトが奴を見る目は決して冷たいものではなく、むしろ温かかった。
半ば笑いながら、担任教師が奴に話しかける。
「おい有栖川、ホームルームはもう始まってるんだ、早く席につけ」
「あ、はい、すみません」
――なんだ、これは。
奴が馴染んでいるのを見て、落ち着いたはずの俺の心臓が再びせわしなく鼓動を始めた。手がじっとりと汗ばみ、口の中が乾く。
そんな訳がない、と自分に言い聞かせるが、体が強ばる。
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