あるハーレム主

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「あいやいやいや、待てまてまてって……」  血のにじむ様な努力を経て、俺はしばらく前にハーレムを形成したのだった。  そのため、いま目の前にいる五人の美しき乙女たちは、かつて俺に恋心を抱き、そして現在進行形で俺に恋い焦がれているはずであった。  俺は彼女たちに囲まれて薔薇色の人生を歩むはずであった。  五人のうちの一人でも欠ければ俺のハーレム計画は崩壊するのであった。  だからこそ、俺は常に細心の注意を払ってハーレムを維持してきたのであった。  鈍感なフリを装い、無邪気な笑顔を浮かべながら歯の浮くようなセリフを垂れ流してきたのであった。  精神的に辛い時期もあったが、それを差し引いてもハーレムを所持できるということは魅力的だったのだ。  ――なのに、これはどうしたことか。  目の前に広がる絶望的光景を、俺は叫び出したくなる心持ちで見つめた。  乙女たちが顔を赤らめながら寄り添っているのは、ひとりの男。  十人居たら十人が誉め称えるような美男子が、我が愛しの乙女たちに囲まれていた。  しかし、その男は俺ではない。  俺が作ったハーレムであるにも関わらず、ハーレム主は俺ではない。 「なんで……なんで……他の男とイチャついちゃってんの……」  わかりやすく言えば、俺はハーレムを奪われたのであった。 ◇◇◇◇◇◇
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