あるハーレム主

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「ご、ごちそうさん」  俺は妹と共に食卓を囲んでいた。毎朝の食事は妹が支度していて、味は良いのだが、やや量が多い。  成長期は沢山食べる必要がある、等と言ってくれるかわゆい妹が作る朝食を食べ残すのも忍びないので、多いとは言えど、いつも完食を心がけてはいる。 「兄さん、まだ卵焼きが残ってる。食べないと」  そう言いながら、妹は表情に微細な変化すら見せない。能面じみた顔の我が妹、ヒナに口へ卵焼きを押し込まれる。 「むがっ」  ヒナは速く正確な手さばきで俺の口に卵焼きをいれたのだが、かといってなかなか咀嚼できない。誰でも経験のある、無理して口に運んでしまい出すに出せず中途半端な状況になってしまったのである。  いくらかわゆい妹の作ったかわゆい卵焼きとは言え、そのかわゆい大きさの入る容量すら我が胃袋には残されていない。  そこで俺は「あ」と、ヒナの後ろの窓を指差し、その隙にテイッシューに卵焼きを吐き出した。 「いやうまかった。それでは俺は学校へ行く」 「いまのなんだったの」 「落ち武者」  ヒナの表情は変わらないままだが、今の冗談に対し不満を抱いたのは明らかであった。自分ですら意味が分からない。  微妙な笑みを浮かべたまま食器を片づけ、食堂を退散。  ポケットの卵焼きは昼に食べることにして、俺は鞄を抱えて家を出た。 ◇◇◇◇  家を出た途端「うっ」強い寒風が吹き付ける。  冬特有の低い空を見上げるようなロマンチシズムな余裕もなく、身を縮めながらやや早足で住宅街を歩いていく。  色も形も変わり映えしない家々の間を歩くのは単調で、つまらない。楳図かずおを見習え。  道沿いの巨大なマンションが東から差す弱い日の光を遮り、歩く道は朝だというのに暗い。  吐く息ばかり白く、家々も道も空色も灰色である。気分上々なはずがない。  現実逃避に、俺は彼奴等のことを考えた。俺のハーレムの面子のことである。ああ早く会いたい。  そんな風に、つい恋に溺れた浅はかな考えを抱えてしまう。  だがそれも仕方ないのだ。  俺はハーレムを創ったばかりで、まだ初々しさが残っているのだ。こんな嬉し恥ずかしな心持ちを味わえるなら、東奔西走した甲斐があったというもの。 ◇◇◇◇  ほかほかとした脳内とは裏腹に、その時、すでに俺は過酷な状況に置かれていたのだが、それが何かは直ぐに白日のもとにさらされるのである。 ◇◇◇◇
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