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俺の知り合いにはこんな男は居ない。妙に馴れ馴れしく俺をネタにしたのも気に入らない。
俺は気安く二の腕を叩く奴の手を振り払って、紳士然とした堂々たる態度で発言した。俺は目的のためなら多少空気が悪くなることも辞さない男だ。
「何も面白くない。なんだこれは。状況が把握できない。なあ、いま、俺は担がれているんだろう?」
「まだ言うのかよっ」
どっ
奴のツッコミで再び場が沸いてしまった。
俺は完全に向こうのペースにはまってしまったのである。
この状況では何を言おうとまともに取り合ってもらえず、全ての言動が冗談の内のひとつだと捉えられてしまう。
女達も笑いの輪廻に入ってしまったらしく、笑いが笑いを呼んでいる。こうなっては時間が過ぎる以外に解決策は無い。とにかく話が出来ない限りは事は始まらないのである。
「っつぁー、仕方ねえ」
俺は戦略的撤退を図ることにした。
ホームルームまではまだ時間もあることだから、いったん教室を出て、暫くどこかで時間を潰そう考えたのだ。
未だに笑い続ける奴らに背を向け、入ってきたばかりのドアを出て、後ろ手に閉める。
廊下でぴーちくぱーちくと会話をする生徒どもの間をすり抜け、俺はあてどなく歩き始めた。
◇◇◇◇◇
俺は騒がしい教室の前を歩み去りながら、しかしそばに友人ひとり居ない我が身を振り返ってみた。
そばに誰も居ないような、そんな隙間時間にはいつも、心に大きな穴が出来たように感じるのであった。
実の所、ハーレムを作ることに懸命になるあまり、俺にはあまり友人が居なかった。
多少は言葉を交わしたりはするものの、深い仲には発展しない。
理由は簡単だ。
それはやはり、俺がハーレム主であるから、なのだった。
当たり前だ。数人の女といつもワーキャーやってる奴に良い感情を抱く男は滅多にいないだろう。女も同じだ。
妬まれるのも覚悟でのことだったが、独りぽっちは少し堪える。
その時、である。
屋上にでも行って、寝ころびながら空を眺めて泣こうかしら、と考えた矢先、突然声をかけられた。
「た、ぶ、ち、くん」
声の方を振り返ると、先程の男が先程の様な微笑みを浮かべて、俺の真後ろに立っていた。
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