あるハーレム主

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 目を限界まで見開き、かつ、ぎらつかせながら、奴は俺を見つめてくる。  涎でぬらぬらと光る唇は、三日月のような形に歪んで、隙間からは人工物かと思わせる程に整然と立ち並ぶ歯を覗かせている。  興奮の余りか頬を紅潮させ、鼻息も荒い。 「お、お前……なんだそれは……」  屋上に直結する階段付近の廊下には、始業前であるため人影は無い。  得体の知れない奴とふたりきりという状況に加えて、なぜか興奮している奴に、俺は少し、怯えた。  教室で見た男とは全く印象が違っている。ついさっきまでのモテ系な雰囲気から一転、いま眼前にたたずむ奴を見ていると、最早その雰囲気だけで逮捕裁判懲役三年は堅いように感じられる。  でも、異常なのは雰囲気だけではない。  あのねっとりとした口調が耳の奥にへばりついたまま離れてくれないのだ。  奴が口にした台詞の全てが脳を侵していくような気がして、背中を冷や汗が伝っていった。  だが、気圧されていることを悟られまいと、俺は目を逸らさずに再び言葉をぶつける。 「おまえ、さっき、とは、全く雰囲気が、違うようだが……」 「ああ、あれはね、営業用。こっちがホントの僕。田淵君に見せるのはちょっと恥ずかしかったけど、頑張っちゃった。にしても、田淵君が僕のことを気にかけてくれてるなんて嬉しいなぁ」  奴がそう言って笑うと、目は糸のように細くなり、頬にはえくぼが出現した。  だが、今はそのえくぼすらも気味が悪い。 「じ、じゃああいつらは……、どういうことなんだ。妙に俺に対してよそよそしい振りをしていたが……」  あいつらとは、もちろん俺のハーレムのことである。  きっとこの男に何かそそのかされてあのような愚行に走ったのだろう。その口振りからも、男が手引きをしたことは間違い無いのである。  ただ、最初は、俺は単なる悪ふざけ程度にしか考えていなかったのだが、何故だろうか、いま、そのようなちゃちな話では済まされないような事に発展しているような気がしてならない。 「……よそよそしい……フリ……?」  奴の唇が、三日月から満月のような形に変化した。  ぽっかりと口を開き、不思議そうな表情を浮かべている。 「あれ?やだ、うそ、もしかして、たぶちくんさ、さっきあの子たちが、お芝居してたとか思ってるの……?」 「…………そうだろ。そうに決まってる」
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