1724人が本棚に入れています
本棚に追加
/547ページ
次の日、僕はいつもより遅く登校した。いつもの時間だと、また正門付近で東藤先生と鉢合わせる可能性があったから。
もし僕と鉢合わせたら、先生はどんな反応をするだろうか。何事も無かったかの様に、僕との事なんて何でも無い事の様に、極普通の態度だろうか。それとも、もう僕の存在自体を忘れた様に避けるだろうか。どちらの想像も先生なら有り得そうで、考えると胸が苦しくなる。
「……今日…休めばよかった」
無意識のうちにそんな独り言が漏れる。すでに廊下にはほとんど生徒の姿は無くて、教室内から賑やかな声が聞こえる。ホームルーム五分前の予鈴が鳴り、僕はギリギリに教室へ辿り着いた。
「拓海」
席に着く前に泰誠に声をかけられた。
「お、おはよう」
泰誠の顔を見た途端、昨日の放課後の事が思い出されて、勝手に気不味さを感じてしまう。さすがに昨日の僕のあの態度は、どう考えても不自然だった。変に思われているのは間違い無い。何か言われるだろうか。
ーーー出来れば昨日の事には触れて欲しくないっ…
そう思ったけれど、それは無理な願いだった。当然と言えば当然な話しで、僕が泰誠の立場でも、やっぱり気になったと思うから。
「体調は良くなったのか?」
「…え?あ、あぁっ…うんっ…もう大丈夫!」
「そう、それなら良いけど…あのさ拓海、ちょっと…話したい事があるんだ」
「………うん。何、かな…」
何かななんて、何となく想像はつくけれど。真っ直ぐに真剣な眼差しを向けられると、もう言い逃れや誤魔化しは通用しないだろうなと思う。何を聞かれるだろう。何を言われるだろう。僕はそれに上手く答えられるだろうか。もしも隠しきれなくて、泰誠に本当の事を知られてしまったらーーー。きっともう、泰誠とは親友でいられなくなるだろう。きっと軽蔑されて、嫌われて、こんなにも真剣な眼差しを向けてくれる事も無くなるかもしれない。そう思うと、怖くて酷く緊張した。
「東藤の事なんだけどーーー」
そこまで言いかけて、泰誠の言葉が止まった。どうしたんだろうと見上げれば、泰誠の視線が僕を見ていない。正確には、僕を見てはいるけれど、視線が合っていない。
「泰誠?」
どうしたの?と、そう聞く前に、腕を掴まれて教室から連れ出された。
最初のコメントを投稿しよう!