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泰誠に連れて来られたのは保健室だった。僕にとっては良い思い出の無い、むしろ全ての始まりであるこの部屋にはあまり近付きたくなかったのだけど、泰誠がそんな事を知る訳もなくて。保健室独特の消毒液の匂い。机の上には『急ぎの用事は職員室まで』と立て札が置いてあり、堤先生の姿が無い事だけが救いだった。
保健室に入り、ようやく泰誠が振り向いた。じっと僕を見詰めて、それから目を閉じて大きな深呼吸をひとつ。
「拓海、ごめん」
そう言って僕を見詰めた泰誠は、僕の良く知るいつもの泰誠だった。
「あんな風に告白するつもりは無かったんだ。いや…俺が拓海を好きなのは本当だけど……もっとちゃんと伝えるつもりだった。でもーーー」
そう言った泰誠の視線が、再び僕の襟元を見る。
「ソレ見たら…ついカッとなった……」
ゆっくりと伸びた手が首筋に触れる。少しだけ身体が強張って、また泰誠が「ごめん」と謝った。それから、はだけたボタンをとめてくれた、一番上まで。
「俺は拓海が好きなんだ。一年の時に出会った時から、ずっと」
面と向かって言われると、急に羞恥が湧いてくる。泰誠からそんな言葉を聞く事になるとは思ってもいなかったから、どう反応していいか分からない。
「意味、分かるか?」
「……え?」
「俺の言う“好き”の意味」
「そ、それはっ…」
そんな眼差しを向けられたらいやでも分かる。泰誠が僕に向ける“好き”の意味。
「キスして、抱きしめて…それ以上の事もしたいって意味だよ」
「……た、泰誠っ…」
ーーーそれ以上。
その率直な言葉に戸惑った。泰誠の事はずっと親友だと思ってたから、泰誠がそんな風に僕を思っていたなんて考えもしなかった。不思議と不快さは無い。でも逆に、泰誠との親友以上の関係も想像出来なくて、ただただ戸惑いだけが渦を巻く。
何も言えない僕に対し、泰誠が続けた。
「その痕……東藤なんだよな?」
きっと泰誠には、これ以上黙ってはいられないだろう。話す事でどうなるかは分からないけれど、覚悟を決めた。僕が小さく頷くと、泰誠の顔が曇る。
「本当に付き合ってないのか?」
「……付き合って…ないよ」
「じゃあどうしてそんな痕がッ…」
また少し泰誠の声が荒くなった。でも仕方がない、当然の疑問だと思うから。
僕は泰誠に今日までの全部を話した。
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