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「…あの野郎…ぶっ殺す」
「ちょっ……泰誠!待って待って!」
慌てて泰誠を止めた。静かにキレる泰誠からは本気が滲み出ていて、今なら本当に何かし兼ねない勢いだったから。
「このままでいい訳ないだろ!?」
「それはっ…そうだけど…」
分かってる。そんなのは僕が一番分かってるんだ。このままでいい訳がない。写真を撮られて、弱味を握られているとは言え、このまま先生の命令に従い続ける事は出来ない。
ーーーでも。
思い出すのは、先生の熱を孕んで濡れた瞳。僕を追い詰める言葉。僕を導く手。嫌なはずなのに…こんな事は続けてていい訳がないのに。どうして忘れられないんだろう。僕のこの気持ちは、いったいどこから来るものなんだろう。
「東藤のこと、好きなのか?」
「え?……好き?僕が……先生を……?」
そんな訳ない。
あり得ない。
僕が?先生を…好き?
あんなことをされて、好きなんてある訳ない。
それなのに、泰誠の言葉を咄嗟に否定出来なかった。
「拓海」
名前を呼ばれて泰誠を見上げると、何故か少し悲しそうな目をした泰誠がいた。呼びかけようとして、遮るようにチャイムが鳴る。一限目の終了を知らせるチャイムだった。
「……何でもない。拓海は教室に戻るか?今なら東藤と顔合わせなくて済むだろ?」
「…そう…だね……泰誠は?」
「俺は……もう少しここで頭を冷やすよ。今アイツを見たら、多分本気で殴りそうだから」
「………う、うん…分かった」
何となく心残りが拭えないまま、保健室を後にしようと入り口のドアに手をかけた時、僕が開けるより先にドアが開いて、そこには堤先生が立っていた。
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