1725人が本棚に入れています
本棚に追加
/547ページ
++++++++++
無理やり拓海を追い出した。自分で聞いておいて、その答えを聞くのが怖かったんだ。拓海のあの顔を見れば、返ってくる答えなんて容易に想像できた。ただ、幸か不幸か拓海自身が自分の気持ちに気付いていないようだった。自分の事となると少し疎いそんな拓海が、また愛しいのだけれど。
自分の気持ちに気付かせてやるほど、俺は優しくない。
「青春だねー」
「………何がです」
「いいんじゃない、若いんだし」
「だから!何が言いたいんだ!」
苛つく。
まぁ…実際俺には直接関係無いんだけど。拓海を苦しめる原因を作った男の関係者ってだけで、今は俺を苛つかせるには十分だ。
「まさかアナタがそんな人だとは思いませんでしたよ」
「あー…もしかして瀬尾くんから聞いちゃった?」
「アナタも東藤も、サイテーの教師だ」
「ふふふ、いったい私にどんなイメージ持ってたの?私は元々そういう人間だよ。君の勝手な想像を私に押し付けられてもねー」
「…………ッ」
「ま、良いイメージを抱かれるのも悪い気はしないけど」
そう言って微笑んだ保健医の堤先生は、見た目通り柔らかな華ようだった。しかし、その印象とは相反し、本音を読ませない顔だった。嘘が苦手で直ぐに顔に出る拓海とは全く正反対で、正直苦手だ。
「アナタは…堤先生は、拓海と東藤の今の状況を知っているんですか?」
「……あ~、うーん…まぁ…なんとなく?」
「じゃあアイツに言って下さいよ。もう拓海にちょっかい出すなって」
「君は瀬尾くんが好きなんだね」
そう言えば、拓海の去り際にかけたセリフを聞かれていたことを思い出す。今更隠すつもりもないけれど。
「そうですよ」
「素直だね。でも、二人の関係は二人の問題でしょ?私が口を出す事でもないと思うけど」
「教師が生徒を脅して身体の関係を強要してるんですよ!?事情を知ってるなら止めるべきでしょう!」
「強要されてるなら、ね」
この人はいったい何が言いたいんだと思う反面、心のどこかで俺もソレを察していたのかもしれない。
最初のコメントを投稿しよう!