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僕が目覚めたのは見知らぬ車の中だった。
「やっと起きたかよ」
乱暴で冷たい声。不機嫌さを露にした声に霞む焦点を何とか合わせると、知らない車の中に僕と東藤先生が乗っていた。一瞬何でこんな事になってるのか状況が飲み込めず、ぼうっとする頭で考える。が、見る間に記憶の渦が押し寄せて、顔が一気に赤くなり、緊張と恥ずかしさと恐怖、それからほんの少しの別の何かで身体が小刻みに震えた。
「………ッ!?な、何でこんな所にっ……僕は…いったい…」
「気絶したんじゃねーか。覚えてないのか?」
「気絶……?」
全く覚えていない。
「ど、どこへ連れて行くつもりなんでかっ…」
「……テメェなぁ」
東藤先生のギラリとした視線が僕を睨む。
「テメェがぶっ倒れるから送ってやろうとしてんだぞ!」
「そ、それは僕のせいじゃありません!元々は先生が僕にあ、あんなコトっ……するからっ……」
「何だよあんなコトって」
「……ッ」
「言えよ」
「な、何でわざわざっ……」
「おら、言ってみろって」
東藤先生がぐいと身を乗り出して、その距離が縮まる。
「やっ……!」
咄嗟に両手を前に突き出して、東藤先生の胸を押した。手が震える。これ以上近付かないでほしい。
「………」
「や、やめて……下さいっ…離れてっ…」
「…………」
じっと見詰めたまま動かない東藤先生。何だかその沈黙が痛くて、そっと視線を上げてみる。触れ合うくらい距離が近くて、咄嗟にまた反らしてしまった。
「は、離れて下さいっ…」
「―――お前」
「………え?」
「お前……瀬尾さ、怯えてる顔はやっぱそそるぜ」
「なっ……!?」
この期に及んでまだ何かするつもりなのかと身構えれば、東藤先生は以外にもあっさりと身を引いた。
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