諦めの日々

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 営業部長の爽やかな独身の青年が、私を好いていることは知っていた。  トイレの出口付近ですれ違ってはよく顔を赤らめていた。一目惚れか、それに近い類いだろう。私とかれに直接の関わりはないのだから。  そんな日が、彼が部長に昇進してから半年続いた。  いよいよ彼が私に接触しようとしたその日、女子共は彼をディナーに連れ去った。取締役の名をちらつかせて。  そして彼女らは、彼に違う女をあてがった。つまり、取締役のお嬢さんを、彼に引き合わせ、結婚させたのだ。  色気だけで社長秘書に成り上がった友香という女に、沢山お歳暮が贈られた、という噂を、友香をよくおもわない者から女子トイレの化粧室で聞いた。  営業部長の成績には目を見張るものがあった。誰が見ても納得する見合い話だっただけに、無能な秘書の手回しでさえ受け入れられたのだろう。  彼に断るという選択はなかったと推測できる。可哀想なことだ。しかし、私が普通じゃないことを知るよりは幸せなのではあるまいか。  私は、男の人を同性と見なしてしまう異形の者である。だからといって、女に恋愛感情を抱くこともない。私の感情は、当の昔に擦りきれている。
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